2009/12/14(月)【2009年11月講座】風間深志氏『自然を大切にしよう!』を受講して

【日 時】平成21年11月19日(木)18:00~
【場 所】上尾市商工会議所 大会議室
【講 師】(株)風間深志事務所 代表取締役 風間 深志氏
【テーマ】『自然を大切にしよう!』

2009年11月講座の模様-1

講師の風間深志先生は、バイクでのエベレスト登攀で標高6,005mの世界記録樹立、史上初の北極点、南極点へのバイクで到達など、数々の輝かしい偉業を成し遂げられた冒険家です。
私のような平凡な人間にはとても想像がつかない別世界であり、講演会場で先生とお会いする前は、きっともの凄い「オーラ」を発している方なんだろうなと想像していました。
ところが実際にお会いすると、私は司会進行役のため先生の間近にいることができたにも関わらず、意外にも「オーラ」をまったく感じず…、率直に言ってごく普通の方でした(失礼)。
おそらく電車で正面に座っても気がつかないかも?それほど自然体な方でした。

「冒険家」になる前、ある出版社にお勤めであった先生は、バイクが好きでたまらず、バイクで世界中を何日も何日もかけて旅したい、しかしそれでは会社にいつまでもいられない、というわけで、会社を辞められたそうです。先生ははじめから「冒険家」になろうとした訳ではなく、その肩書きは後から付けたのだそうです。しかしその思い切った行動からして、すでに冒険だと思います。最初に「冒険家」を名乗るのは勇気がいったと話されましたが、先生はただ、バイクは素晴らしい乗り物なんだということを社会に広めたい、という強い思いをお持ちだったのだそうです。

講演テーマは、「自然を大切にしよう!」でした。しかし先生のお話は、実にさまざまな方向に展開していきます。「今日は本当は自然の話をしなきゃいけないんだよね!」と言いつつも、パリ・ダカールラリー出場の際に足に大怪我を負ったことで、日本の外科医療技術は欧米より20年も30年も遅れていて、これを何とか日本の人々に知ってもらって良くしたいと運動を始めたという話。障害を持った方たちとオーストラリア大陸を自転車で横断した話(先生は障害者のことをもライフワークとしているそうです)。アフリカのナミビアのヒンバ族という少数民族は女性社会で(というか女性しかいない。男はみんな街に出ていなくなってしまうのだそうです)、調和を重んじて平和を愛し、彼らの一番大事な物は羊だけなんだ、現代の物欲に満ちた物質文明にいる私たちとどっちが幸せなんだ?という話などなど。

2009年11月講座の模様-2

「いや、今日は自然の話をしなきゃいけませんね」と先生。「僕は新潟が好きなんだよね。」と、突然話が転回します。「なぜ新潟が?」と思っていると、「5月が好きなんだよね」と。日本海側の冬は、長く雪に閉ざされ、厳しい。その冬を乗り越えて5月、ようやく春が目覚める時期。そんな時期に新潟を訪ねるのだそうです。すると、「地元の人たちが、とてもうきうきしているのが分かるんだよね」。先生は、そんな人たちに出会うのがとても好きなのだそうです。「自然っていうのは、どこにだってあるんだよね。どこに行っても、自然はただの自然。だけど、自然の中に生きている人間が元気でなかったら、“地域の魅力”っていうものは感じられないんだよね」。
私はこのお話に、非常な共感を覚えました。思わず膝を叩きそうになりました。普段自分が地域でまちづくりに関わる中で、ついつい、目に見える具体的な成果ばかりを気にしてしまいがちなのですが、大事なのはそれによって人間が元気になれるかどうかだ、それがすべての行動の基準でないと…、と思い始めていた矢先だったものですから。先生は冒険家として自然が好きであるのと同じくらい、いやむしろそれ以上に、人間が好きなのでしょう。

風間先生は、「地球元気村」というNPOを主宰され、全国の地方自治体などが主催する自然体験イベントを企画運営し、子どもたちに自然の素晴らしさを伝える活動をされています。そして全国のさまざまな地域に足を運び、いろんな人々と話をする機会をお持ちだそうですが、その経験から、先生はこうもおっしゃるのです。
「地域おこしだ、まちづくりだと言って、あちこちでいろんな取り組みをしている。それは素晴らしいことだけど、でも日本人って今、みんな、同じような事を考えているんじゃないかな? どこに行っても、結局みんな何かで儲けようとしている。何だか、みんな事業だとか商売をしようとしている。それって何か、間違いだと思うんだよね」。厳しくも鋭いご指摘です。私は、講演を聴いているうちに、先生は冒険家であると同時に、実は哲学者ではないのかと思えてきました。「本当に豊かな人生って何だろうね?」と、自問自答を繰り返し、そして私たちにも問いかけながら、走りつづける哲学者。

ところで、南極でも北極でも、私はバイクというものはずっと「走っている」ものかと思っていましたら、実は必ずしもそうではないのだそうです。先生は「バイクは押して歩くんだよね!」と。これには驚きでした。極限の世界。とても2輪のタイヤで走行する状況ではない。
「俺って、何でこんな馬鹿なことをしてるんだろう?」莫大な財産をかけてやってきた極地。歩くうちに、強烈な後悔の念に風間先生は捕われたそうです。そして南極での出来事。手の指が凍傷にかかり、切断を覚悟か、というほどの状況に陥りました。「俺は指をとるのか? 冒険をとるのか?」その時先生の心に浮かんだ言葉は、「母ちゃん、ごめん」だった。そして先生はまた(哲学者のように)考えます。「でも一体、母親って何だろう?」そしてそのとき、「母親とは、俺の体だったんだ」と悟ります。次に、「じゃあ父親ってなんだろう?」と、さらに思索が展開します。そして、「父親とは、俺の精神なんだ」と悟るのです。

2009年11月講座の模様-3

さまざまな冒険を経てわかったこと。それは、「日常が一番大事なんだと知ること」だそうです。非日常に身をおくことで、あたりまえの日常のありがたさが分かる。実にシンプルでした。私は日常、なんと物事を考えることなく過ごしているか。これからは、先生のような大スケールの冒険は無理としても…、少しは冒険的なことに挑戦してみて、進むべき道を探り、ぶれない精神を手にしてみたい。そんな意欲というか元気を、強烈に与えていただいたご講義でした。ありがとうございます。
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